ISBN:4826219083 単行本 神保 光太郎 白凰社 ¥945

三好達治
 

甃のうへ

あはれ花びらながれ

をみなごに花びらながれ

をみなごしめやかに語らひあゆみ

うららかの跫音空にながれ

をりふしに瞳をあげて

翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり

み寺の甍みどりにうるほひ

廂々に

風鐸のすがたしづかなれば

ひとりなる

わが身の影をあゆまする甃のうへ

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この詩の前半は、華やかな鮮やかな若い女性たちの姿を描いている。
その姿と、花びらの華が重なってイメージされる。
人生の春。
彼女たちには暗い影はない。
明るい、鮮やかな色彩が目に浮かぶようだ。

しかし後半ではそれを眺める「我」の存在が現れる。
翳り無き春によって、「しづか」で、「独りなる」わが身がより一層強く意識される。

そして、賑やかな、華やかな若さが周囲に溢れる中で、私も「しづかに」独り。
心の中は荒れていて平静ではないが、
それは独りの感情であり、賑々しさと同一ではない。

この諦めにも似た乖離の感覚を、一体どう処理すればいいのか、自分自身分からないでいる。
諦めないと豪語していた自分だった筈なのに…?
情けなさを通り越して疲労感と、虚脱感が残る。

Ahare Hanabira Nagare
Ominago ni Hanabira Nagare
Ominago simeyaka ni Katarai Ayumi
Uraraka no Ashioto Sora ni Nagare
Kagerinaki Mitera no Haru wo Sugiyukunari



こうしてローマ字に書き出すと、この詩の持つ不思議なリズムが、決して偶然では無いということに気づかされる。
美しい韻を踏んでいる。

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